笑い命クラスというのはなんだった?
1990年頃

どうしてドリフトのコンテストに
笑い命という場違いなクラスが生まれたのか?

あまり関係ないかもしれないが、
藤本の生まれは、大阪南部の岸和田です。

小さい頃から、お笑いに関しては、ずっと関心があった。
父親と一緒に行った道頓堀の角座、
母親に連れられた中座……テレビでも新喜劇が流れていた。

ただ、こんなことを言うと、いまのヒトは、
「あ、やっぱり〜、吉本新喜劇ですよね!」となるのだが、
あちらはまったくと言っていいほど関心がない。
花紀京を除いては、まったく面白いと思えないのだ。

やっぱり、というか、藤山寛美と桂枝雀です。

ま、それはあまり関係がないんですが(笑)、

けっこう、笑いというジャンルにはシビアです。

じんわりと面白いというのが、個人的には好きなんですが、
その反対で、バナナの皮で滑ってしまった的なものには、
ついつい笑ってしまうのも事実です。

ドリコンGPを思いついたときに、
職人芸、曲芸、グループ交際というクラス分けと同時に
頭に浮かんだのが「笑い命」というクラスでした。

どうして? なんで??
ドリフトのコンテストに、笑いが必要なのか?

CARBOYスタッフ全員に不思議がられました。
……チッチッ、チミたちにはわかんないでしょうね〜。

ドリコンGPというイベントは、言ってみれば、
タイムで決まらないスポーツイベントなんです。

ドリフトの持つ迫力、いけないものを見ているような、
公にするのを憚られるものを競う競技とでもいったらいいでしょか。

それまでのレーシング常識を、最初からはみ出してしまっている
競技であり、その判断基準は、見ている人間が、どれほど
感動したり、鳥肌が立ったりと、わけの分からない衝動に
襲われるかどうか?ということです。

つまり、それまでのモータースポーツとは、基準も価値観も
異なったジャンルの競技なんです。
だから、いろいろな価値観があってしかるべきだし、
参加するヒトが100人いたら、99通りの価値観があってもいい。

そんな基本事項があって、「笑い命」は、産まれるべくして
誕生しました。当時、「グループ交際」だって、何台もの
マシンが、一気にドリフトをすることができるなんて、
誰も予想していなかったし、そういう風潮もなかった。

でも、どうでしょ?
いまじゃ、数台のマシンが組んでのドリフトは、
当たり前のように行われています。

ただ、「笑い命」だけは、現在は存在していません。
これは、ドリフトイベントを開催している人間が、
多様な価値観というものを無視しているからでしょう。
同じような価値観を持ったものだけ、その範囲内で
イベントを考えているから……かな。

ま、見切り発車で創設された「笑い命」クラスでしたが、
ドリコンGPが開幕して次年度には、とんでもないヤツが登場。

そうです。伝説の「桜本源一郎!」です。

下の記事を見ていただいても、なんのことか?
さっぱりとわからない方も多いと思います。
ただ、クルマの上に立って、ポーズを取っているだけ……。

そうです。その現場の状況や、興奮具合を知らない人にとっては、
まるっきり理解できないのが「笑い」というもんです。

                                                         ©八重洲出版 

クルマの動きは、ただただめちゃくちゃで、
ぶつかろうがナニしようが、アクセルだけは抜いてない。
しかも、この日のために必死になって作り上げ、仕上げてきた
どピンクの30Z。ま、いまなら貴重なマシンの上に乗ってるなんて、
言語道断でありますし、赤いレーシングスーツ風のつなぎに
合わせている安モンの靴も、

精一杯の「桜本源一郎!」です。

ドリコンGPで面白いのは、コクピットに座っているはずの
ドライバーの気持ちが、伝わってくるという現象です。

バイクなら、ライダーの動きや姿勢が見える。
だけど、コクピットに座って、シートベルトを締めている
ドライバーの動きは、ほとんど見ることができない。

でも、ドリコンGPに限っては、そいつがナニを考え、
どういうことをしようとしているのか?

そういうことが伝わってくるんですね。
不思議です。言葉では伝えられません。

このときの「桜本源一郎!」には、
間違いなく、満員の中山ギャラリーに
伝わってきたナニカがありました。

上の写真を見ていだければおわかりのように、
当時のギャラリーは、1台のクルマの動きを
食い入るように見つめていた。

ドリフトが失敗すれば、「ア〜ァ〜」と嘆息が。
成功すれば「オオオォ〜!」と歓声が。

人車一体ならぬ、エントラント&ギャラリー一体化が、
ドリコンGPに限っては、具現化していた。

そんななかで、「桜本源一郎!」の走りは、
満場のギャラリーの琴線を震わせたのだ。

「笑い命」クラスの場合、ドリフトよりも、
スベるか、ウケるかの臨界点がシビアである。
どんな種類の笑いならウケるのか?
ヒトそれぞれの価値観の違いを乗り越えて、
ウケを取るのは、非常に難易度が高い。

しかしながら、バナナの皮で滑った場合、
ほとんどの人間は、反応してしまう。

つまり、「桜本源一郎!」は、バナナの皮で滑った状態を、
その走りの時間分維持し続けたといったらいいのかもしれない。

まず、単純に滑り、その後複雑に滑り、そして、滑りながら
色んなパターンの滑り方を演じた……いや、これは、
穿ちすぎた観察だろう。

「桜本源一郎!」は、ナニも考えてなかった。

ただ、ただ、ガムラシャラだった。頭の中が真っ白になって、
それでもアクセルだけは踏み続けた。

単純にそれだけだったのかもしれない。
でも、その極端な単純さが、満場のギャラリーに響いた。

いやあ、藤本も思わず笑って、その笑いが加速度的に
大きくなってしまいました。こんなことは珍しい。

いま、「桜本源一郎!」はどうしているだろう?
27年経っても、ヘコヘコ体操をしているだろうか?
会って……いや、会いたくはない。

間違っても、この記事を見て、連絡を取ろうなどとは、
金輪際思っていただかないこと願って、筆を置きます。

 

 

 
CARBOY1990年08月に掲載されたものです。
※以下、当時のまま掲載させていただきますので※
※価格、仕様等は変更されている可能性が大です※

 



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